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金融危機に強い資産運用法: 四つの法則

2011年03月20日

   危機は必ずやってくる、しかも、忘れたころにやってくる。「山高ければ谷深し」というように、マーケットが急落すれば、右肩上がりの相場でせっかく積み上げた利益も一気に失ってしまう。いくつもの山と谷を越えて長期にわたり資産形成してゆくにはどうすればよいか。本稿では、危機にも強い資産運用法の「四つの鉄則」を紹介したい。(以下はエコノミスト臨時増刊号3月14日発売に掲載した内容です。)

1.マーケット・サイクルを知る

2.資産保全に徹する

3.投資戦略を分散する

4.アルファを追求

 

 個人投資家にはすぐに応用できないものもあるが、安定した投資とはどういうものか、その理想型を知っておくことで、今後の投資に参考になれば幸いである。

1.マーケット・サイクルを知る

 これまでは、実体経済の好況・不況という「景気循環」(ビジネス・サイクル)が一般的な考え方であった。しかし、直近の30年を振り返ると、景気が良ければ株式相場が上がるといった、マーケットが実体経済を反映するという単純な発想は通用しなくなっている。

 今やボーダレスな投資資金が金融市場に流れ込み、トレンドを先読みしてグローバルに動きまわる。たとえば、景気が予想通りに回復に向かわないなど、先読みした幻影と経済の実態との間に格差が生じると、相場が激しく動揺する。「マーケット・サイクル」と呼ばれているものだが、表1はファンドクエスト(FundQuest)社のリサーチで、過去30年間の米国における五つのマーケット・サイクルを示している。

 このサイクルを防ごうとしても、大量のグローバル・マネーが急速に流入する場合、一国で金融引き締めを行ってもその効果は薄まってしまうなど、政府の金融政策にも限界がある。じっさい2003年以降、ドル資産で運用収益を求めるグローバル・マネーが米国に流入し、住宅や不動産、株価などの資産価値を押し上げた。資産インフレが起こっている状況でFRBが過剰流動性に歯止めをかけてバブルの勢いを制止することは難しかった。

 米国の住宅バブルもITバブルと同様に「根拠なき熱狂」を作り出し、リーマン・ショックにより幕を閉じた。このように、グローバルな投資家としては、バブルの生成と破たんという循環=マーケット・サイクルのタイミングを見極めることが肝心である。

2.資産保全に徹する

表1  5つのマーケット・サイクル: 1980-2010年

  強気/弱気 期間 S&P500指数 

期間中

トータルリターン

1 弱気 1980年1月-1982年7月 14.95%
  強気 1982年8月-1987年8月 279.65%
    92か月 293.70%
2 ブラックマンデー 1987年9月-1987年11月 -29.58%
  強気 1987年12月-1990年7月 69.80%
    35か月 40.22%
3 第一次湾岸戦争 1990年8月-1991年2月 5.43%
  強気 1991年3月-1996年11月 141.70%
  根拠なき熱狂 1996年12月-2000年3月 108.11%
    116か月 255.25%
4 ITバブル崩壊 2000年4月-2003年3月 -40.93%
  住宅バブル 2003年4月-2007年7月 85.50%
    88か月 44.57%
5 信用ひっ迫 2007年8月-2009年2月 -47.53%
  政府救済措置 2009年3月-2010年2月 53.62%
    31か月 6.09%
総括   1980年1月-2010年2月 2,325.23%

 

出所: Jane Li, “When Active Management Shines vs Passive”, June 2010,  p.13

日本語訳とともに簡素化

 もう一度表1を見てみよう。単純に計算すると、1980年1月にS&P500指数に投資した1000㌦は、黙って投資し続けておけば30年後の2010年2月には約24倍の24000㌦になっている。これはウォール街の黄金期で稼げた極めてよいリターンであり、これから先も同じことが繰り返されるかどうかはわからない。

 こうした相場動向に連動するインデックスなどパッシブ運用においては強気相場が続けばよいが、多くの人はマーケットが急落するときに売り急ぎ、上がり相場では買い急ぐため、コンスタントによい収益を出すのは難しい。急落時でもパニックにならずに長期にわたり利益を守る秘訣は、「決して元本を減らさない」という資産保全に徹することである。

 多くの人は高い投資リターンに心を奪われる。年に50%も値上がりする銘柄は魅力的だが、裏返せばそれだけ大きなリスクもある。市場環境が変われば50%急落するかもしれない。じっさい、米国ではITバブルがはじけたとき、インターネット株は暴落した。

 仮に1000㌦をネット関連株に投資したとする。ITバブルで2年連続50%値上がりした場合、資産価値は2250㌦になる。しかし、3年目にバブルが破たんし、70%下落したら、一気に675㌦と元本を割ってしまう。4年目で1000㌦まで戻すには50%以上の値上がりを期待するしかないが、バブル破たん後ではなかなか難しいだろう。同じ時期、もし着実に毎月1%ずつリターンを稼いでいれば、4年目で約1.6倍の1573㌦となっている。898㌦(=1573-675)の差は大きく、元本割れの損失を取り戻すまでの機会費用(時間とコスト)を考慮に入れると、その差はさらに大きくなる。

 どんな環境でも元本を減らさないでコツコツと確実に積み上げていく、最悪でもマイナスにならない程度に安定的な運用を長期にわたり実践する– この資産保全の鉄則を、百年以上にわたり富を築いてきた欧米の富裕層は代々守り、戦争や大恐慌によって相場が一気に崩れる危機をいくども経験して生き延びてきた。

 さて、資産保全の鉄則は言うのはたやすいが、実際にどうしたらよいのだろうか。

3.投資戦略を分散する

 グローバル化が進むにつれ、世界中の市場が緊密に関係しあうようになった。そのため、金融危機の際に、世界同時株安など、相場が連動して下げてしまい、損失幅が拡大する傾向が強くなっている。

 これまでの投資は、欧州、アジア、米国などの地域分散をはかる、あるいは、株・債券・通貨、不動産など様々な資産に分散する、といった地域や資産の分散を図っても、すべてが同時に下げるときには効果が薄まってしまう。こうした危機にさいしても資産保全を図るには、地域、資産の分散だけではなく投資戦略の分散が必要である(表2)。

 投資戦略を分散とは、買い持ちしかできない(ロング・オンリー)通常のインデックスや公募投信に加え、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタルといったオルタナティブ投資を組み入れることである。オルタナティブ投資は従来の運用と相関性が低いので、ポートフォリオに入れることで全体のリスクを低減できる。

 ヘッジファンドは、下げ相場でも空売り(ショート)やデリバティブによるヘッジ手法を駆使して損失を防ぐことができる。プライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルは、個別企業の未公開株や新規事業の評価といった、日々の相場動向から直接影響を受けない運用資産である。

 これから5年、10年といった長期の運用を考える場合、組入れ資産の流動性と投資時間軸に沿って、マーケット・サイクルをにらみつつ投資戦略を分散していければ理想的である。

 まず、短期的な運用手法として債券、通貨、株式のトレーディングに特化したヘッジファンドや商品先物を扱うCTAを組み入れる。こうした流動性の高い資産をロング・ショートやグローバル・マクロ戦略で運用するファンドを選別してポートフォリオに組み入れる。さらに、マーケット・サイクルが切り替わる局面ではボラティリティーが高まる。こうした局面ではボラティリティー・トレーディングに長けた運用者にアロケーションを増やすか、運用者を入れ替える必要もある。素早い運用者のリバランス対応を行うためには、解約請求が毎月可能であるようなファンドが望ましい。

 また、3年以上の中期的な運用手法には、破たん証券を底で買い入れて価値の回復とともに収益を上げるディストレストやクレジット裁定といった戦略を組み入れる。運用資産自体の流動性が低くなればなるほど、投資の入り口のタイミングが重要になる。5-10年の長期投資では、インフラ・ファンドやプライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタルを組み入れる。

 ベンチャー投資では、景気循環や技術革新の波などマーケット・サイクルよりも長めのスパンをいくつも重ね合わせたリサーチが必要である。インフラへの投資は、当事国のカントリー・リスクなど政治リスクへの考慮が重要である。

表2 組み入れ資産の流動性と投資期間による戦略の分散

 

流動性

投資期間 

短期:1-3年

 

中期:3-7年

 

長期:7年以上

高い/

株式、債券、通貨

CTA、クウォンツ高頻度トレーディング、ロング・ショート、マクロ戦略    
中程度/

ディストレスト証券、仕組証券、不動産

  ディストレスト、クレジット戦略、

プライベート・エクイティ

 
低い     インフラ、ベンチャー・キャピタル

 

4.アルファを追求

 一般に欧米機関投資家は、相場動向に連動した相対的なリターン(ベータ)の抽出には従来の投資運用を適応するが、相場動向には左右されない絶対値のリターン(アルファ)を抽出するためにはオルタナティブ運用を活用する。

 オルタナティブ運用がよい実績を生むかどうか、つまり、アルファ抽出がうまくいくかどうかは、いかによい運用者を見出すか、運用者の質にかかっている。

 さらに、有能な運用者に投資しても、実績が長期にわたり保たれるという保証はない。トップクラスの運用者ですら、いくつものマーケット・サイクルを通して変質することがある。ポートフォリオ責任者として良い実績を持続するためには、投資先の運用者のクオリティ・コントロール(QC)が課題となる。さらに、運用者のリバランスや入替を機動的に行える体制作りも必須である。

 具体的な管理インフラとしては、投資家が透明性、流動性、リスク管理を行うには個別の分別勘定(SMA)を設定し、ニーズに合わせたポートフォリオ運用が望ましい。SMAが整備されれば、運用者の品質管理とアロケーションに注力できる。

 SMA管理のオペレーションは、24時間グローバルに対応できるグローバルカストディ・サービスにアウトソーシングすることで効率化できる。これは信託業務の一環で、欧米で発達している。ポートフォリオ設定後、投資先のファンド運用者がコンプライアンスに違反していないかなど、カストディアンが継続的にチェックしてくれる。今後予想される世界同時多発テロやリーマン・ショックなど突発的な危機への対策としても有効である。

まとめ

 まとめると、いくつもの危機を乗り越えて長期の安定運用を行う秘訣は、資産保全を最優先し、オルタナティブ投資を組み入れ、ベータではなく持続的にアルファを追求することにある。マーケット・サイクルを読む目利き力、そして戦略別に運用者の質を見抜く目利き力、このふたつの力が投資家に求められる。

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