国際金融情報 銭形ヘッジ(ZenigataHedge)

日本版・国富ファンドの構想

2011年01月28日

 日本と同じような貿易国家であるシンガポールやオランダは、日本よりも小さな国力でありながら、シンガポールではGICとテマセークという世界に誇る政府系ファンドが、オランダでは公的年金基金(ABP)が、国民の資産保全のために効率的に国富を運用し、国富を増やしている。なぜ同じようなことが日本で可能ではないのか。以下は、日本版国富ファンドの青写真に向けてのドラフトである。

第1章 日本の危機

 日本は第二次大戦敗戦の焼け野原から立ち上がり、奇跡の高度経済成長を遂げ、国民の暮らしは豊かになった。しかし21世紀に入り、少子高齢化、長引くデフレ不況、無策で先の見えない政権、明確な戦略すら描けないことで漠然とした将来への不安が社会に蔓延している。

 日本には希望がないという声が聞かれるが、少なくとも戦後の高度成長で蓄積した富がある。すでに中国に抜かれたが、国民は世界GDP第3位の豊かな暮らしをしている。技術大国であり、また国民は十分な義務教育を受けている。国民がやる気をおこせば、そして政府が政策さえ誤らなければ、十分成長してゆく素地が日本にはある。

 今ある豊かさを長く享受するためには、成長戦略そして国富を持続させるための運用が両輪のように回転し、日本を前進させなければならない。その柱として、「国富ファンド」を立ち上げることを提案する。

 国富持続のシステム構築は、まさに待ったなし、である。2012年から団塊の世代の先頭が65歳にさしかかり、日本は大量退職の時代に入る。財政の基盤の立て直しができるうちに、手を打たなければならない。

i.  日本の「金縛り」

  現状を振り返ると、リーマン・ショック後リスク資産圧縮に動く銀行や生損保は、積極的な投資行動ができないでいる。しかも、含み損のある投資の処理や潜在的な不良債権を先送りしている。企業への融資が先細れば、能力のある企業はニューヨークやシンガポールの証券取引所に上場するなど海外で資金調達し、競争力のないゾンビ企業だけが国内に残ってしまい、日本の成長性にさらに陰りが出てくる。

 日本が将来も成長を続けるためには、技術革新の著しい昨今、特に新規分野での研究開発、成長分野への投資は欠かせない。将来を見据えた戦略的な投資がなければ、産業は育成されず、国として競争力を失い、国富を減らすことになる。しかし、リスクを伴う先行投資の資金は、機関投資家から離れつつある。

 日本の国富については、個人資産1400兆円と、かなりのお金があると思っている人も多い。しかし、日本国民の金融資産のほとんどが国債・地方債を通して国に吸い上げられている。大まかな数字であるが、家計部門の金融資産は約1410兆円、負債380兆円を引いて1030兆円ある。この資産のうち960兆円は、公的部門(公的年金、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、企業年金基金)と国債・地方債の一般政府部門の資金に吸い上げられている。さらなる国債増発で民間部門に回る金額はますます減少し、農家への所得保証や各世帯への子供手当などの政府のばらまきによって、国債残高は今後も増加すると予想される。

 財務省をみると一般会計で80兆円、特別会計で200兆円のお金があるという。特別会計の巨額なお金の用途は様々な法律によって縛られ、がんじがらめになっている。日本は「しがらみのポートフォリオ」状態である。お金がありながら有効活用できない、まさに「金縛り」といえるだろう。

 そして、海外からは日本には成長する気力がないと見放されつつある。しかも、郵政の官製化が進み、このままいけば、民間圧迫おかまいなしの、旧ソ連よりも強力な中央集権国家官僚体制が出来上りそうだ。民主党の政策が混迷を深めるほど、小党連立で政治不安が増幅してゆく。加えて、政治的リーダーシップがないため、既得権だけが残り、しがらみ国家官僚体制は一層強固になるだろう。

 そんな中、わずかな希望は、まだ残っている日本国民が蓄積してきた資産、余剰資金である。日本は、丈夫な肉体を持ちながらも、血液が滞り、脳死状態にある。もし、血液が体内に循環して体の各部門に必要な栄養分を送り、機能が正常化すれば、健康を取り戻すことができる。余剰資金が成長戦略や意味ある政策に回り始めれば、「金縛り」から解放され、経済もまた活性化に向かうはずである。

 問題は、誰もリスクを取りたがらない、だから何もしない、という無限に無責任が連鎖する組織体制にある。一方、国際競争の中で生き残りを賭けて成長しようとする新興国は、必死で追い上げ、そして、国家の繁栄をできるだけ持続させようと努力を怠らない。こうした環境の中、日本だけが無策、無責任のまま、安泰にいられるのか。何もしないリスクをいつまで取れるのか。

 グローバル化がさらに進む21世紀では、変化のスピードは加速し、その影響の及ぶ範囲はますます拡大してゆく。日本がこのまま無策を放置すれば、経済、教育あらゆる面で、2、3年以内に中進国レベルに、5-10年以内にアフリカ諸国レベルまで国力が落ちてゆくのではないだろうか。それほど、日本には危機感がなく、また、諸外国は危機意識を持って必死の努力を続けている、この現実のギャップが、大きいのである。

 日本で「国富ファンド」や運用というと、すぐに「失敗したら誰が責任とるのか、国が損失を埋めてくれるのか」という議論になるだろう。一方、新興諸国を含む多くのファンドでは、プロ中のプロが運用を管理し、10年、20年という長期にわたりよい実績を上げつつある。たとえば、シンガポールのGICやテマセークなど名だたる政府系ファンドは、優れた投資運用を行い、その実績は国際的な評価を受けている。しかも、その評価が金融立国としてのシンガポールの国際的地位を高め、国益の実現にも大いに貢献している。

 2008年のリーマン・ショック以降、先進諸国では政府が金融機関救済のために緊急に多額の資金を供給し、一次的にとはいえ政府が管理する国家資本主義体制に近い形をとっている。こうした政府の緊急措置に対する批判はあるものの、明確な出口戦略と正常化の過程が見えてくるまで、この状況は続くと思われる。

 日本にとっては、一見逆説的ではあるが、既存の官僚中央集権的組織を再利用して、効率的な国家資本主義経営に切り替えることが必要であろう。国を挙げて「オール・ジャパン」としていかに優れた体制を作るか、その中核は「国富ファンド」である。以下、日本・国富ファンドのスケッチを述べる。

ii.  現状の問題点

 日本では有機的な資金循環がない、この金縛り状況では以下のような深刻な問題が浮き彫りになっている。以下、問題点を整理していこう。

低迷する国富

 日本の国富レベルを、1999年と2008年の国内総生産と家計部門の金融資産額とを指標に比べると、10年たってほとんど増加していないことが明らかである。このうちの家計部門の資産の大部分を預かっている公的年金の運用利回りの前提は4.1%だが、仮に年率4.1%で毎年運用できたならば、家計部門の金融資産は、1401兆円→2049兆円と、約50%近く増えていたはずだ。

  国内総生産(名目GDP) 家計部門 金融資産
1999年 498兆円 1,401兆円
2008年 497兆円 1,410兆円

 

出典:総務省統計局HP「世界の統計」、日本銀行「資金循環統計」からニューホライゾン・キャピタル(NHC)作成

 もうひとつ、日本の家計部門の金融資産には重要なからくりがある。確かに家計部門の金融資産は1410兆円あるが、じっさい借入380兆円を引くと実質約1000兆円である。このうち、政府(=国民の税金)が将来返さなければならない借入が約960兆円である。家計部門の実際の資産は国の借金を肩代わりしていることになる。

  また、成長性に関して、日米のGDPを比較しよう。過去10年で、その差は歴然としている。日本がほとんど変わらないのに比べて、米国は935.4兆円→1,441.1兆円と、約54%も国富を増やしている。

(単位:10億ドル、1ドル=100円として換算)

  日本 米国
1999年 4,980 9,354
2008年 4,970 14,441

 

出典:National Economic Accounts, Bureau of Economic Analysis, July 2009

 さらに過去15年のスパンでみると、日米の差はいっそう拡大している。日本のバブル崩壊後の「失われた15年」で、日本がいかに停滞し続け、その間に米国のみならず世界との差が広がったか、その深刻な格差を物語っている。

  日本 米国
1993年 4,800 6,657
2008年 4,970 14,441

出典: 同上

低迷する運用利回り

 過去10-15年をふりかえると、もともと経済成長がなかったにもかかわらず、家計部門の金融資産を国が吸い上げ、非効率的な運用をした結果、日本の国富は増加していない。国民の預貯金や年金に積み立てられるお金は、公的機関で運用されてきたのだが、その運用は日本国債に極度に偏り、世界に類を見ない運用方針になっている。

通常の資産運用では、リスク調整後のリターンを十分考慮し、さまざまな資産クラスに分散する。しかし、日本の国富は単一の資産(日本国債)に集中している。日本国債はこれまで安全資産と言われてきたが、債務残高が増大し、格下げなど将来のリスクが高まりつつある。

 それでは、日本国債以外に日本株など他の資産クラスを加えてはどうか。単純化のために、資産クラスを国内債券と国内株式だけにとどめ、また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の現行の基本ポートフォリオの策定において推計された期待リターン、リスク、および相関と同一の数値を使用する。

 このデータは、1990年から2009年6月までの数値に基づく。

  国内債券 国内株式
期待リターン 3.00% 4.80%
標準偏差(リスク) 5.42% 22.27%

 

相関係数

  国内債券 国内株式
国内債券 1.00  
国内株式 0.22 1.00

 

  国内債券と株式の相関性は0.22と、逆相関ではないが、低相関といえる。そこで、仮に100%国内債券で構成されているポートフォリオに国内株式を加え、国内債券67%プラス国内株式33%という配分(アロケーション)にした場合、期待リターンは上昇する。しかし、同時に、リスクが増加するため、リスク調整後のリターン(シャープレシオ)で見ると、分散しても、リスク調整後のリターンは、0.1845から0.1794へと、かえって悪化している。日本株自体が過去20年低迷し、高リスク・低リターンであった事実からすれば、国内株への分散だけではポートフォリオ全体の収益は改善されない。

ポートフォリオの配分比率

国内債券 国内株式   期待リターン 標準偏差 シャープレシオ
100% 0% 100% 3.00% 5.42% 0.1845
67% 33% 100% 3.59% 8.88% 0.1794

 

 以上のように、ポートフォリオの資産分散が国内債券と国内株式に限定される場合、リスク調整後のリターン改善は困難なのが実情である。

経済成長への配慮を欠いた資産配分

 日本の家計部門のネット金融資産のほとんどが国と地方の債務に充てられている。特に、公的年金・ゆうちょ銀行、かんぽ生命といった国営機関が預かっている400兆円は、その大半が国債に投資されている。家計部門のこうした資金が民間企業に回らず、非効率的な支出になっている。

 しかも、本来経済成長へと資金を循環させるべき民間の金融機関が、その機能を十分に果たせないでいる。金融庁の指導のもと銀行はリスクアセット圧縮に動いてきたが、リーマン・ショック後の金融危機でその傾向は強まっている。そのため、中堅企業向け融資は一層先細り、預貸率(預金残高に対する貸出金の割合を表した数値)は低くなっている。

 危機後の不況下、資金繰りの厳しい中堅企業への貸し渋り、貸しはがし対策として、金融庁は2009年9月に中小企業金融円滑化法案を公表した。しかし、金融庁自己査定マニュアルに従っているため、企業側の財務体質が改善されなければ、銀行が企業向け融資を活発化することはできない。また、そのために必要な中堅企業への資本注入についても、銀行は独禁法や銀行法の誓約があることに加え、リスクアセットを増やせないなかでは、その役割がなかなか果たせないでいる。

 現行の枠組みでは、家計部門の余剰資金が銀行や金融機関、公的資金でプールされても、資金を必要としている中堅企業や成長戦略への資本注入ができないでいる。そのため、銀行や金融機関を補完する別の独立した枠組みに資金を迂回させて、そこから資本注入(エクイティ)を行い、同時に銀行や金融機関が融資(デット)を実施するという共同作業が必要となる。この場合、独立した枠組みとは、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドといったオルタナティブ投資ファンドである。

 米国では、1980年代に銀行融資による間接金融から企業が資本市場で直接資金を調達する直接金融へと企業金融のあり方が大きく変わった。日本では米国におけるオルタナティブ投資ファンドの動きに遅れること30年、いまだに間接金融の力が強い。オルタナティブ投資ファンドの効用については、第3章で詳しく述べる。

先進的な運用手法、オルタナティブ投資への配慮がない

 かつて「貯蓄から投資へ」という政府の掛け声があったが、日本の株式相場の低迷が続き、掛け声倒れになっているようだ。多くの日本人の金融資産の大部分が預貯金であり、いまだに「投資運用の貧困」が解決されないのはなぜか。投資家は日本国内によい投資先がないとぼやくかもしれないが、事実、運用手法の発展を促すような厚みのある資本市場が育ってこなかったといういきさつがある。その大きな要因は、公的資金を積極的に成長分野に促す政策がとられてなかった点にある。この点は米国と比較してみると、明らかである。

 米国でも政府の政策が呼び水となって、今日の資本市場の発展の基盤が作られてきた。重要な点は、米国では公的機関が資産運用において、オルタナティブ運用の基盤を創り、新しい市場を育成してきたという歴史的背景である。この点が日本と決定的に異なる。日本の公的年金を始め公的資金の運用において、オルタナティブ投資への配慮が全くないという国際的にも異例な状況が続いている。

 また、欧米のみならず新興諸国を含む政府系ファンドもオルタナティブ投資を積極的に運用に取り入れている。世界一級の投資家にとって、オルタナティブ運用は国際金融の最先端に位置する。常に新しい運用手法を開発するマネジャーを見出し、先行リスクを取って投資することは、よりよい実績をあげることにつながる。

 オルタナティブ運用は、長期的に安定した運用実績を実現するためには無視できない独立した資産クラスとして認識されている。リーマン・ショック後いったん資産総額が落ち込んだものの、2009年以降はオルタナティブ投資への資金は再び戻り始めている。ヘッジファンドへは米国の大手年金基金や政府系ファンドからの資金が流入しており、また、米国最大の公的年金基金カルパースがプライベート・エクイティへの投資を増額するなど、プライベート・エクイティ投資も見直されている。

 日本が国際金融の面で世界標準に近づくためにも、国富ファンドがオルタナティブ投資を積極的に採用する必要がある。次章では国富ファンドのミッションについて述べ、第3章で、オルタナティブ投資がそのミッションを果すために有効な戦略であることを示していく。

第2章 国富ファンドのミッション

i.  国家資本主義へ

 リーマン・ショック以降、先進諸国では金融危機の収束に向けて統制的な国家経済体制が取られた。国家主導型の経済・金融政策に関しては、中央集権的な権力の介在が大きく、これまでのグローバル化の流れを創ってきた「新自由主義の終わり」がささやかれている。

 その一方で、新興諸国、特に中国や韓国、シンガポールの成長はめざましい。かつて、韓国、台湾、シンガポール、香港は1980年代に経済成長を遂げ、「アジアの四タイガー」、「輝けるNICs(ニックス、Newly Industrializing Countries、新興工業国)」と称された。1997年のアジア通貨危機で困難に直面したものの、彼らは様々な危機を乗り越え、今では国際金融の舞台で飛躍的な活躍を見せている。

 特に、国益のために戦略的な投資を行う政府系ファンドは、金融資本市場における国家資本主義の先頭に立っている。シンガポールや韓国、中国では政府が有能な人材を政府系ファンドに投入し、積極的な投資運用を行っている。

ii. 世界の政府系ファンドの動き

政府系ファンドとは

 一般に、政府系ファンドの原資には、一国の資金、原油などの資源収入、外貨準備資産や公的年金など幅広い資金が含まれる。

 政府系ファンドは、中東産油国(サウジ、UAE、カタール、クウェート)、資源国(ロシア、ノルウェー)、アジア(韓国、中国、シンガポール、ブルネイ)など、その運用総額はまもなく6兆ドルに達するともいわれ、巨大マネーを動かす最終投資家として、国際金融の舞台で大きな存在感を示している。

 運用目的は各国の国益に応じてさまざまである。総じて、資源価格の変動などに備える、外貨準備金の効率的運用、インフラ関連の開発プロジェクト、年金債務準備のためなど、国富ファンドの運用資金は、国際的な外的要因によるリスクへの対応、また、国内の経済成長の一環として役に立っている。

(参考資料 世界の主要SWF)

[世界の主な国富ファンド 表] 

ファンド名 規模 財源 設立年
UAE Abu Dhabi Investment Authority 875 石油 1976
ノルウェー Government Pension Fund-Global 358 石油 1990
サウジアラビア Saudi Arabia Monetary Agency 329 石油 1952
クウェート Kuwait Investment Authority 250 石油 1953
シンガポール Government Investment Corporation 100 外貨準備 1981
シンガポール Temasek Holdings 108 財政余剰 1974
中国 China Investment Corporation 200 外貨準備 2007
中国(香港) Monetary Authority Investment Portfolio 110 外貨準備 1998
ロシア Oil Stabilization Fund 120 石油 2004
オーストラリア Australian Future Fund 42 財政余剰 2006
米国(アラスカ) Alaska Permanent Reserve Fund 40 石油 1976

規模 (億ドル) 

  日本でも過去に日本版政府系ファンドを立ち上げようとする動きはあった。しかし、2008年リーマン・ショック以降、民主党への政権交代とあいまって、この動きは進んでいない。これまで、自民党内で、国家戦略プロジェクトチームを立ち上げ、「GPIF(公的年金の運用機関である年金積立金管理独立行政法人)を原資に10兆円程度を別枠で設置、運用期間5年」という案があった。

 また、渡辺善美金融担当相(当時)の私的懇談会でGPIFの運用改善を提言したが、具体的な施策提示には至らなかった。GPIFの運用見直しに関しては、2010年3月に大幅な改善は見られず、目標利回りもなくなってしまった。

 一方、日本経済調査協議会(日経調)は、吉国眞一氏(元日銀)を委員長とし、学会、大手金融機関、年金運用関係者等の学識者が、様々な角度から政府系ファンドを検討し、「吉国委員会提言」をまとめた。この報告書は、「政府系ファンド(SWF)の役割と政策的インプリケーション」と題され、2009年10月に公表された。

 報告書の内容は、1年半の委員会活動をまとめたもので、IMFや他国SWFのリサーチ、「日本版SWF」に関して外為特会やGPIFの制度上のあり方についての提言がおもである。どちらかといえば、国際金融の資金フローと日本の役割という観点が強く、日本版政府系ファンドがどのような運用をすべきか、その具体的なポートフォリオの内容までふみこんだブループリント作成まで至っていない。

 報告書の中では、伊藤隆敏教授(東京大学大学院)は「日本にもSWFを」という講演(2008年12月15日)がまとめられている。その中で、伊藤教授は日本版SWFの姿についてより具体的なイメージを提供している。教授によれば、日本版SWFの候補は二つあり、GPIF(150兆円)と外貨準備(100兆円)で、双方とも巨大規模である。GPIFでは小分けにしてベビーファンドをいくつか設置し、外貨準備のほうは、利子の受取部分を基金化し、現在3兆円から4兆円の利子収入を取り崩さずに、日本版SWFの原資とする。しかしながら、GPIFは厚生労働省の管轄下にあり、ガバナンスの問題がある。また、外貨準備の基金運用についても外為法の改正が必要である。この内側のハードルを政府みずからが解決する気持ちがあるのか否かが、カギとなりそうだ。

 制度面でもたついている日本を尻目に、アジア諸国の政府系ファンドでは、シンガポールのGICや中国のCICなど国を挙げて、優れた運用技術を開発し、また運用者を育成し、よい運用実績を持続できるよう努力を積んでいる。

 GICは「G3のインフレ率+5%」をベンチマークとし、その目標を達成しているといわれる。また、中国CICは、2009年に11.7%のリターンを上げたと報じられている。アジアのSWFは、アジア地域での資金循環を目指し、相互の成長を促し、危機に対応できるよう戦略的な協力関係の構築にも努めている。

 翻って日本では、消費税など過剰な税金や赤字国債で借金を増やしても、少子高齢化で人口のへこむ若い世代への負担が増えるだけで、国民に何のインセンティブをも与えない。伊藤教授も、国民の積み立てた年金で政府が国債を買うことに対して、「将来取り崩すために持っている資産(=年金基金)というのは実は政府の中で貸し借りをしているだけなので、正味資産は消えてしまう」と警告している。

 日本が内向きのまま、富もまた国内に滞り、成長戦略や海外への新規投資に必要なリスク・マネーが供給されずに世界の流れと逆行すれば、近い将来、日本国債とともに心中することにもなりかねない。

 さらに、国際的な金融危機以降、積極的に新規投資へ向かう日本の機関投資家のマネーが先細る中、プロの運用者の欠損や最新の運用技術の導入に後れをとることが懸念されている。こうした現状打破のために、国富ファンドを立ち上げ、その資産の一部をアジア勢と肩を並べて投資運用できる体制を創り、金融面でアジアへの日本の貢献を高めることが望まれる。

iii. 国富ファンドのミッション 

 なぜ、今、日本が国富ファンドを設置し、始めなければならないのか?

市民社会を守る国富運用

 公的年金やゆちょの資金の出し手はもともとは市民、国民である。資金の性格上、国民の利益、すなわち国益に沿う政策的投資に向かうのが筋であろう。国富運用には、公的資金をプールしたファンド設定が望ましい。国富ファンドのミッションは、「公共の富、公共の福祉Common wealth」を持続させることであり、その運用目的に沿った透明性とガバナンスを果たす必要がある。

 公共の福祉の実現とは、基本的な人権を守ること、人間らしい生活のできる「最低生活水準」を国や企業が保障することである。具体的には、個人が失職しても退職しても、あるいは病気になっても、最低限人間らしく生活できるという経済面での保障である。これが、政府と市民、国家と国民との間の社会契約の基本である。

 富の上に成り立つ市民社会、そして、その社会・経済基盤の上に、国や政府の運営が民主的に行われる。民主国家日本の将来を見据えた国富運用の目的は、第一に国内の成長産業へ資金循環、第二に海外、とくにアジアを中心とした新興国への資金循環である。次章では、国富ファンド設立に向けて具体的な国富運用の中身について検討していく。

第3章 国富ファンドのポートフォリオ運用

 シミュレーションとして、国富ファンドの原資に、ゆうちょ資金の銀行の総資産の1%(約2兆円)を充てる。国富ファンド運用時期については、2012年までに基本的な枠組みを決めてスタート地点に立ちたい。

 日本の年金制度は「賦課方式」であるため、人口の少ない若い世代が、「団塊の世代」の老後を支えなければならない。しかも年金財政は悪化し、抜本的な年金制度改革は先延ばしにされ、このままいけば、若い現役世代には過酷な負担がのしかかるため、個人消費は冷え込み、景気はいっそう低迷し、若者は前に進む気力すら失いかねない。(注 鈴木亘 社会保障の不都合な真実 p114) 以下、国富ファンドの運用の中身について、言及していく。

i.  オルタナティブ投資の必要性

 一般に、働き始めてから円満退職するまでの40年近い間、勤労所得の一部は貯蓄され、運用に回される。何千万人の退職積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(通称GPIF)」の運用責任は実に重い。

 GPIFは2009年度に140-150兆円の積立金を管理下におき、その規模は世界最大級といえる。GPIFの運用戦略は、名目運用目標3.2%に対して、基本ポートフォリオの策定を行う(注1)。現在の基本ポートフォリオは、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期資金5%となっている。各投資対象の市場価格変動にともない、リバランスを行う。オルタナティブ資産への投資はなく、それゆえ、組み入れ資産は相場に連動し、ポートフォリオは市場リスク(ベータ)にさらされる。もっともGPIFの巨大な資金量を効率的に運用するには、コストの面からもパッシブ運用にならざるをえない。じっさい、アクティブ対パッシブの比率は概ね2対8である。

 しかしながら、ポートフォリオにおいては、資産クラスと戦略の双方で、相場動向と相関性の低いオルタナティブ投資により絶対値収益(アルファ)を増やす必要がある。大手企業年金では、ボラティリティの高い株式投資の配分を減らし、その分プライベート・エクイティ(PE)を導入する傾向がある。債券とPEのポートフォリオのほうがリスク低減を図り、安定リターンを上げられるためである。

 年金運用や一般家計の資産運用は長期安定運用が基本である。一般に欧米機関投資家は、伝統的資産(株や債券)に加え、PEを含むオルタナティブ投資の絶対値運用を導入することで、リスクを低減し、よりよい運用実績を達成している。オルタナティブが伝統的な運用とは相関性が低く、ポートフォリオの一部に低相関の運用資産を入れることで全体のリスク軽減となるからだ。

 理論的にいえば、正の相関性とは、一方の運用資産がプラスの収益を上げるとき、他方も同じ方向に動き、プラスの収益を上げるが、逆に損失が起こる場合には全体が大きなマイナスとなる。負の相関性とは、一方がプラスの収益を上げるとき、他方は逆方向に動くのでマイナスの損失となるという関係である。

 低相関性とは、例えば、相場が下落し、インデックス運用などパッシブ運用も同様に損失を出すときに、オルタナティブ投資がクッションになって、全体のポートフォリオの損失の度合いを減らす効果がある。逆に、強気市場においては、インデックス運用のほうが高い収益を上げることがある。投資家にとって重要な点は、逆相関のある資産クラスに分散投資することで、弱気相場で大きな損失を防ぎ、長期にわたり資産保全がはかれることである。

 相場動向と連動するベータだけに注力した運用の場合、5-6年の景気循環に一度か二度大きな相場の下落に遭遇し、それまでの強気市場で積み上げた収益を失ってしまう。こうした体験は、米国では1980年から2010年の30年間で5回も繰り返されてきた。バブルの生成と破たんの過程で、いかに元本を減らさずに増やしていくのが難しいかを経験してきた。そして、投資運用業界の中で、オルタナティブ投資手法は資産保全のために不可欠な資産クラスとして認められるようになってきた。

 また、過去30年でグローバル化が進み、金融危機の際には世界同時株安など、世界の市場で相場が連動して下がり、損失幅が拡大してしまう。そのため、従来の地域分散は効果が薄くなっている。さらに、株・債券・通貨など様々な資産分散を図っても、あらゆる相場が同時安により、大きく下げることがある。このため、資産保全を図るためには、資産クラスや地域のみならずオルタナティブ戦略を取り入れる必要がある。ちなみに、GICでは、オルタナティブ資産がポートフォリオの20%以上を占めている。

 現在、郵貯ポートフォリオの大半を国債が占め、日本国債の格下があれば、ポートフォリオ全体のリスクは一気に高まってしまう。一方、欧米の公的年金基金は、運用資産の10-20%をオルタナティブ、特にプライベート・エクイティ(PE)に配分している。これは相場動向と相関性の低い、あるいは逆相関の資産を組み入れることでリスクを減らし、安定的なリターンを得るためである。郵貯運用も欧米の年金並みに資産と戦略の分散を図り、リスク低減により長期安定運用を目指す必要がある。

 以下、実際にポートフォリオにPEを組み入れたケースを見てみよう。以下の数値は、米国のPEと債券、PEと株式の相関性を日本にそのままあてはめるという条件の下で作られている。つまり、米国でのPEに関するデータを日本に応用するとどうなるか、という数値として参考にして頂きたい。

 こうした強い仮定は、具体的には、以下のように作られている。まず、PEの期待リターン、およびリスクをCambridge Associates LLC公表のUS Private Equity Indexの過去20年のデータ(1990年から2009年6月末)に基づいて確定し、そのPE Indexと同期間のBarclays Capital US Aggregate Bond Index (Total Return)とS&P500 (Total Return)の相関を、日本におけるPEと国内債券、および国内株式の相関としている。

ポートフォリオにPEを入れる

  国内債券 国内株式 PE
期待リターン 3.00% 4.80% 10.46%
標準偏差 5.42% 22.27% 16.01%

 

相関性

  国内債券 国内株式 PE
国内債券 1.00    
国内株式 0.22 1.00  
PE -0.11 0.80 1.00

 

 PEは、国内債券と逆相関にあり、また国内株式との相関性が高い。じっさい、公的機関の資産運用について、典型的なポートフォリオ「国内債券67%と国内株式33%」を例にとろう。ここに欧米の公的年金並みに15%のPEファンドを加える。その分、債券と株式から均等に減らす。

ポートフォリオ 期待リターン リスク シャープレシオ
債券67%+株式33% 3.59% 8.88% 0.179
債券60%+株式25%+PE15% 4.58% 8.75% 0.294
債券100% 3.00% 5.42% 0.185
債券85%+PE15% 4.12% 4.95% 0.428

 

 上記の表で見ると、「債券+株式+PE」のポートフォリオでは、リスク調整後のリターン(シャープレシオ)が0.294へと改善がみられる。また、債券(日本国債)100%のポートフォリオにPEを加えることでシャープレシオは、0.185から0.428と大きく改善される。PEが国内債券と逆相関(-0.11)、かつ国内株式とは相関性が高い(0.80)ため、国内株式の代替としてPEを組み入れると、ポートフォリオ全体として収益性を高めることができる。

 PEは、マーケット動向とは独立した個別案件を手掛けるケースが多い。例えば、不良債権処理や事業再生をテーマとした産業貢献度の高いPEファンドへの投資は、成長戦略を助け、かつポートフォリオ運用にも役立つ。

ii. 運用体制のキーポイント

 従来の日本の公的年金およびゆうちょなど公的資金の運用は、国債を中心とした安全運用である。よって「国富ファンド」運用については、「オルタナティブ投資+アクティブ運用」という積極的なスタンスをとる。

 運用の目的は、相場動向と低相関のアルファ(絶対収益)の確保と、透明性の確保を達成し、10年の中長期にわたり、安定的収益を目指す。

アルファの確保

 一般に欧米機関投資家は、伝統資産からはベータ、オルタナティブ資産からはアルファの抽出を課題と考えている。市場との低相関でアルファを目指すオルタナティブ運用は、長期的な安定運用に不可欠であり、今後さらに重要拡大が見込まれる。

 The Bank of New York and Casey Quirk Analysisのレポート(2009年4月)によれば、2010-2013年にかけてヘッジファンドに8千億ドル以上の資金流入が見込まれる。年金基金や大学・財団基金、ファミリーオフィスといった息の長い投資家、またアジアの政府系ファンドからの需要が高まるためである。

 供給サイドからみると、運用者のパイプラインが課題となるだろう。優秀な運用者は上位5-10%に集中する。さらに、有能な運用者でも、輝かしい実績を続けられる期間が景気の一サイクル(3-5年)よりも短い場合がある。アルファの源泉を失うケースとして、最適な投資枠(キャパシティ)を超えた資金流入により運用者の戦略が有効性を失う場合、市場環境の変化で運用者の投資手法や戦略が有効でなくなり、運用者が元来の戦略を変えるなど「スタイル・ドリフト」を起こす場合などがあげられる。

 さらに、アルファの確保で注力すべき点が二つある。まず、オルタナティブのポートフォリオ運用の観点から、投資タイミングの分散を見極める必要がある。例えば、流動性の低いPEでは景気循環のタイミングが収益を大きく左右する。マーケット・サイクルと実体経済の景気循環とにずれがあるゆえ、PE投資に入るタイミングの見極めが難しくなっている。次に、年金基金に関しては制度上の観点から、母体の財務やALMの関係上、投資によるインカムゲインのタイミングも考慮すべき課題となる。

 総じて、機関投資家がオルタナティブ運用の効果を最大化するためには、ヘッジファンド、PEなど全体を設計するManager of Managers(MoMs)が望ましい。MoMsでは運用者の品質管理を行い、景気循環の局面に応じて戦略へのアロケーションを変えることで持続的なアルファを確保する。

客観的な透明性の確保

 1980年代半ば以降、米国では規制緩和により、企業が直接資本市場から資金調達する「直接金融」(Disintermediation)が発展し、IT革命もあいまって証券化の手法も開発されてきた。技術革新はまた、オルタナティブ運用のミドル、バックオフィス体制の管理力アップにも貢献している。デリバティブなど複雑な手法を用いるヘッジファンドなど複数のオルタナティブ投資についてもオンラインでの情報管理が進んでいる。さらに、ポートフォリオ全体のコンプライアンス・モニタリング、運用ガイドラインのチェック機能を備え、投資家のニーズに応じている。

 具体的な管理プラットフォームとしては、マスターカストディ制度やSMA(セパレートマネージドアカウント)などの存在が大きい。専用の管理プラットフォームを設定することで、機関投資家は一元的な管理を徹底し、設計後のポートフォリオ運用のモニタリング体制を整備し、透明性を確保することができる。

 米国の大手機関投資家(特に年金基金)は、コア以外の業務(ミドル・バックだけでなく管理業務まで)をアウトソーシング対象と考えている。そのうえで、客観的な透明性を確保し、運用上のイニシャティブを掌握し、コアのミッション(安定的給付に必要な資金と資産管理)に注力しようとしている。 

iii.  運用の目的

 国富ファンドの運用には二つの目的がある。第一に日本国内の成長戦略への投資(1兆円)で、円ベースで行われる。もうひとつは海外への投資(1兆円)で、国内から海外への資金循環を目指し、ポートフォリオ全体はドルベースでの絶対収益を狙う。

 第一の目的については、既存の国内の先端技術のR&D(研究開発)、さらにそのビジネス化へ投資を行う。具体的には国内の独立系ベンチャー・キャピタル(シード)、中堅企業の再生やM&Aを扱うプライベート・エクイティ・ファンドに投資する。全体的に中長期(5-10年)で流動性は低めだが高めの収益IRR(年率円で8-10%)を狙う。

 第二の目的については、海外の優れた運用ファンドを選別し、資産別、戦略別、地域別に分散投資する。具体的には、世界の景気循環のタイミングを考慮し、中期的(3-5年)に流動性が低くても収益性の高いプライベート・エクイティへの投資、さらに、流動性が高い戦略のヘッジファンドと流動性が低くてもインカムゲインのあるヘッジファンドへの投資を組み合わせ、中期的安定収益(年率ドルで6-8%)を確保する。

 さらに、国富ファンドは、GICやテマセークと一部共同投資を行うことで、優れた運用者、運用手法、ポートフォリオ戦略に関して情報を共有し、運用実績の内在化を目指す。そのうえで資源国を含む中東の政府系ファンドとの連携を取りながら、アジア全域の資金循環に参画する。 

iv. 運用体制の課題

 アルファと透明性の確保を目指す運用において、総合的に効率のよい運用体制(アドミ・バックも含む)は不可欠である。具体的な運用体制として、フロント(投資運用部隊)、ミドル(リスク管理部隊)、バックオフィス(証券受渡・決算管理部隊)の全体を整備する必要がある。

アルファの抽出

 アルファとは、市場に連動するインデックスの相対的な収益を上回る運用収益であり、その源泉は運用者(マネジャー)の優秀性にある。投資家はいかにアルファを抽出するか、よい運用者を見出すかが課題である。

 FundQuest社は、アクティブ運用、すなわちインデックス以外のロング・オンリーのマネジャーの実績を30年にわたり集積し、分析した興味深いリポートを公表した(Jane Li, “When Active Management Shines VS Passive”, 2010年6月)。1980-2010年の5つの景気サイクルを乗り越え、さらに弱気市場でアルファを抽出できるのは、新興国の債券運用、つまり、30年で成長の度合いが一番高い領域においてである。

 伝統資産のアクティブ運用と異なるオルタナティブでは、アルファ抽出はマネジャーに大きく依存する。特に流動性の低いPEなどの資産クラスについては、景気サイクルのタイミングの見極めがどれほど的確だったかを重視する必要がある。

インデックス運用ではないアクティブ運用そしてオルタナティブ投資においては、マネジャーの質が長期にわたり一定に保たれるという保証はない。トップクラスのマネジャーを抽出しても、その質が景気サイクルを通して変化することもある。運用面では、マネジャーの入替を機動的に行い、ポートフォリオ全体の質を常に管理することが課題となる。

 そうした目的のためには、マネジャー・オブ・マネジャーズ(MoM)の組成とその管理インフラが必要である。

透明性、流動性、リスク管理

 具体的には、投資家が透明性、流動性、リスク管理を行うには個別の分別勘定(Separate Managed Account、SMA)を設定し、ニーズに合わせたポートフォリオ運用が望ましい。

 SMAが整備されていれば、ニーズに見合うオーダーメイドのリスク・リターン設計、ピンポイント的な金融商品の開発が機動的に行われるし、また、ポートフォリオ設定後、コンプライアンス・モニタリングや運用ガイドラインのチェックを継続的に行うことができる。また、情報の一元化でリスク管理面においても、効率化が図られる。

 さらに、情報の統括という点においても、バックオフィス関連のカストディ、会計処理、パフォーマンス測定、デリバティブ取引の決済など労働集約的な業務も一括して効率化できる。特に、オルタナティブ運用面に加えセキュリティ・レンディングなど資産の有効活用を望む年金が増えるなか、総合的なミドル・オフィス、バックオフィスのサービスが望まれる。

効率性、安全性

 米国の大手年金基金は、オルタナティブを含む一元的なポートフォリオ管理をグローバルカストディ・サービスを行う大手の第三者にアウトソーシングし、常にチェックできる体制を確立している。そのうえで、MoMの設計やポートフォリオのアーキテクチャーなどコアの業務に注力し、効率的な運用を行っている。

 24時間グローバルに対応できるグローバルカストディ・サービス提供者へのアウトソーシングは運用の効率化を図る一方、世界同時多発テロやリーマン・ショックなど突発的な危機への対策として有効である。

 運用の具体的な業務の仕分けをまとめると、以下のようになる。

フロント: アルファの確保

²  基本的に、資産・戦略別マネジャー・オブ・マネジャーズ(MoM)形式にする。特にオルタナティブ投資においてアルファの源泉は運用者にある。優秀な運用者を見出し、資産クラスおよび戦略ごとに分散させ、アロケーションを決めるとともに、運用者の質的管理を徹底させるためにリバランスを行う。

²  国内の成長戦略への投資に関しては、日本の独立系HF、PEファンドのマネジャーを選別し、同様にMoM形式を確立

²  海外の投資戦略に関しては、GIC、テマセークに共同投資するなど、ポートフォリオ運用を中核に。主要な海外拠点を置き、人的ネットワークを構築し、その情報網を活用

²  運用チームにはアルファ抽出に関して「その道のプロ」を終結させる。そうしたプロ集団では日本人にこだわらず、外国人が多く占める可能性もある。

²  人事、給与体系についても、マネジャーにインセンティブを与えるようなGICなど先進的な政府系ファンドのやり方を踏襲する。

ミドル: 透明性の確保

²  リスク管理

²  運用者の管理

²  コンプライアンス管理

バック: 効率性・安全性の確保

²  統括的なグローバル・カストディによる管理

²  テロや金融危機などのショックに24時間対応

 <注 NHC安東氏の厚意により、NHC資料 「ゆうちょ銀行等の資産運用について 主として国内の資金循環改善の観点から」2010年2月 から多くのデータを引用させていただいた。>

米国の景気動向、金融市場のトレンドを先読みする情報