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ウォジンローア博士の米国景気見通し

2010年12月20日

 ウォジンローア博士(Dr. Albert M. Wojnilower)は、ボルカー(現米経済再生諮問会議議長)氏とかつてNY連銀で机を並べたエコノミスト。連銀の後、ファースト・ボストンで25年間チーフエコノミストとして活躍した。現在ヘッジファンド運用会社のアドバイザーを務める。金利予測で定評がある。

 以下、12月15日に書かれた博士の四半期ニュースレターを抜粋・翻訳した。現状を「心地よい間奏曲」と博士は分析している。

<概要>

 失業率の高止まりが確認され、失望感が広がった後に、米政府が一層の財政拡大に踏み切るというニュースは市場に安心感を与えた。しかしながら、財政拡大はわずか年に1回であり、中間選挙後の議会と大統領は、まもなく財政赤字をどのように縮小するかという議論に集中することになる。

 また、在庫調整で浮上した景気も勢いを失うだろうし、財政緊縮が法制化されれば来年のGDP成長率は3%を達成し、失業率は2011年末にはおそらく9%と予想される。

 景気回復がおぼつかない中、企業収益は25%前後の伸びと新記録を打ち立て、2011年にはさらに10%の増加が見込まれる。こうした好調な企業収益の伸びは主に海外の収益増加によるもので、国内の設備投資や雇用、家計収入の改善にはつながっていない。グローバルな労働供給や企業間の競争が激化するにつれ、中国のような新興勢力が後を絶たない。人民元切上げは国際金融の均衡を促すが、それによって米国の雇用状況が改善に向かうわけではない。

 米国の労働市場が回復するには、自国で消費するモノやサービスの製造を増やす以外にない。輸出が増えても、海外からの貿易で国内の雇用が大きく改善されることはない。国内需要を支える住宅や関連の建設はまだ落ち込んだままだ。実需をはるかに超えた住宅在庫がはけるまでにはまだ時間がかかるだろう。同様なことは、ショッピングモール、学校、道路などにも当てはまる。

 バブル破たんの中失職した人々は住宅ローンの負担が重くのしかかるうえに、転職で転勤する場合も住宅を売ることもできず、また新規のローンも組めないという困難に直面している。高齢者にとってはスキルが時代遅れになっていたり、業務が既に海外にアウトソースされたり、再就職はいっそう難しい。こうした環境では、住宅販売や住宅建設の促進のためにローン金利を低く据え置く必要がある。

 減税に次ぐ財政拡大もまた、金融緩和も不況を和らげるために引き続き歓迎されている。FRBは直接・間接的に民間のMBS(モーゲージ関連証券)を購入してきたが、それも終了した。

 最近の「量的緩和(QE2)」でFRBは米国債のみを購入した。我々のような個人投資家が米国債を購入する場合は税金を払うようなものだが、FRBが米国債以外を購入してくれるのは減税に匹敵する。

 QE2のおかげで低金利が続くと見込まれるが、いったん景気回復が着実と感じられ、予想に反してインフレ懸念が出てくれば(労賃が抑制されているとはいえ)、FRBの持続的な緩和策に疑念が起こり、金利上昇に転じる可能性もある。

 しかしながら、高金利が長く続くことはないだろう。高金利は資産価格を下げ、景気を冷え込ませる。金融危機や地政学上の紛争などが起これば、「質への逃避」から安全な米国へと資金が流入する。失業率が下がってきている段階でFRBタカ派が引締めを強行すれば、再び不況へ突入することになるだろう。

 為替においても、振り子が極端から極端に振れるような事態が予想される。ドル安時に、あまりに大幅にドルが下落すれば、海外の当局が介入し(米国債を購入するなど)、ドルの価値下落を防ごうとする。

 金融緩和策には、通貨供給と融資拡大、同時に資本増強とリスク資産圧縮という相矛盾するような目的がある。米国の短期金利はゼロに近く、銀行の収益をサポートしている。このため、資産ミニバブルの生成と破たんとが起こっている。本来ならば、FRBが銀行に対して過剰な余剰金に手数料を負担させることで、こうした矛盾を軽減できると考えるのだが、こうした政策が実現することはまだないようだ。

 アメリカ人にとって金融取引は「私の言葉は私の契約」という規範に基づいてきた。契約に違反した相手は裁判所で裁かれ、公的な批判を浴びた。しかしながら、契約相手との関係が壊れ、契約違反で罰則どころか得をするような異常な事態になっている。政府は小切手を切ったのに、そのお金が市場で現金化されずに一部の金満家を太らせているという事態である。こうした信用崩壊から脱し、違反者を罰する新たな社会契約と約束が成立しない限り、本来の繁栄は戻ってこないだろう。

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