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  • 2007年08月01日

    アディクタム 2007年8月号

    最近、各種メディアでは毎日のようにヘッジファンドやプライベート・エクイティ(PE)ファンドなど大手投資ファンドが金融面のトップニュースを飾る。
    今でこそ投資ファンドは隆盛を誇っているが、今から20年ほど前、私はあるウォール街の投資銀行買収に参加し、同社のマーチャント・バンキング・ファンド を調査したことがあった。その中身は、優良中小企業の未公開株への投資やつなぎ融資など、今で言うPEファンド(当時はそういう用語もなかった)だ。同社 の経営幹部の人たちが資金を出し合って立ち上げた社内ファンドを率いたハミルトン・ジェームズ氏は、現在ブラックストーン社のトップに上り詰めている。彼 の20年間のキャリアはまさにPE業界の発展史とぴったり重なっている。
    投資ファンドは直接金融の雄である。銀行借入・融資といった間接金融ではなく、企業の資本に投資し、つまり、株式を取得し、ビジネスの指導権を握る。そのぶんリスクを取らなければならないが、ひとたびビジネスが成功すればリターンも大きい。
    この20年でグローバル化が進み、IT革命を経て世界はフラット化した。情報とマネーが自在に世界を動き回り、21世紀の今、我々は金融資本主義の段階に 到達した。投資ファンドは、最高の頭脳と情報を集めたエリート集団であり、経済・金融のみならず政治権力の中枢とも結びついている。
    米国では特定のエリート層が政・財・官の「リボルビング・ドア」(回転扉)を自由に行き来する。彼らの出身大学であるアイビーリーグや、ウォール街の投資銀行、そしてワシントンDCで、そのネットワークを通して絆を深め、情報と利益を享受し合う。
    PE運用会社が強い影響力を持ち、メディアをにぎわす理由は、その優れた人脈図にある。以下、大手PEファンドのサーベラスの例をみてとろう。

    華麗なるPE人脈図: 躍進するサーベラス

    ニューヨークタイムズ紙によれば、PE運用会社、サーベラスは240億ドルの運用資産を有し、その投資先は米国大手優良企業45社以上にのぼる。投 資先企業の総従業員数は25万人、年間売り上げ500億ドル(6兆円!)と、マイクロソフト、モトローラ、ペプシをしのぐ規模である。しかも、このPE ファンドは年率22%ものリターンを上げている。
    そして、「プライベート」な運用とは裏腹に、クエール元副大統領、スノウ元財務長官など元政府高官をアドバイザーに据えている。彼らはその人的ネットワークを通して案件の発掘や交渉に影響力を発揮する。加えて、サーベラスは巨額の政治献金を行っている。
    1992年、サーベラスはフェルドスタイン氏が1千万ドルを元手に設立された。そして、破綻証券を底値で買い、再建して価値を高めて売却するというニッチ 戦略で大きな成功を収めてきた。日本の不良資産処理にもその強みを発揮した。あおぞら銀行を上場させ、わずか3年間で412%ものリターンを上げたことは 有名である。
    過去の大成功からサーベラスの運用資金は増加し、案件規模も拡大していった。大型案件が増えるにつれ、メディアからプライバシーを保つことが難しくなって きた。たとえば、カナダ航空買収に関しては労働組合が反対し、サーベラス側はカナダ元首相のマローニー氏をアドバイザーに据えるとともに、買収後2年間は 航空会社を転売しないと約束することで事態を収拾した。
    このようにPEファンドの投資行動が目立ち影響力が大きくなるにつれ、ますますパブリック・リレーション(PR)の重要性が高まっている。PEが一般企業以上に目立つ存在である以上、公的イメージにも気配りしなければならない状況になっている。

    物言う投資ファンド

    日本の6月は株主総会の季節である。この時期、企業の経営陣は株主の動向から目が離せない。その大株主には年金や投信運用会社などの大手機関投資家 に加え、ヘッジファンドやPEファンドが含まれる。さらに、こうした投資ファンドに出資している投資家の半分以上が公的年金や企業年金など機関投資家なの である。
    株主総会では、物言う株主、いわゆるアクティビストの活躍が目立つようになってきている。彼らは、株主のために企業価値を最大化する努力を怠っているとい う手厳しい指摘が経営陣に向けられる。かつて、日本でも村上ファンドがアクティビストとして株主の利益のための良き代弁者たらんとしたが、インサイダー取 引で失墜してしまった。しかし、最近ではファンドとアクティビストが一体となっているとは限らず、また、ファンドと一般株主の利害が一致しないこともあ り、株主相互の関係は複雑化している。
    最近、大手PEファンド、KKRはゴールドマンサックスと共同で、オーディオメーカー、ハーマン・インターナショナル・インダストリーズを買収(バイアウト)した。この買収額は80億ドル、一株当り120ドル(2007年4月25日の終値)で17%のプレミアム付だった。
    こういう場合、通常ハーマン・インターナショナルの既存株主は、買収価格で株売却に動くのだが、この買収では「切り株(Stub equity)」の提供を受けるオプションが与えられた。つまり、KKRとゴールドマンが設立する新会社の株を受け取ることもできるのだ。新会社が新たに 株式公開(IPO)すれば、ハーマンの元株主たちもその利益にあやかることができる。しかも、買収が完了した時点でハーマンの株価は27%も価値が上がる という計算がすでになされている。
    このような「切り株」というツールをめぐり、買収を仕掛けるPEファンドと被買収側の株主との間で駆け引きが行われている。公開企業の株主構成にいっそう 多くのアクティビストが名を連ねるようになり、彼らがPEファンドによる私的な取引で一般の株主が公平に扱われていないとクレーム攻勢をかけてくる。こう したアクティビストの株主からの不平を沈め、PEファンドによる買収をスムーズに完了させるために、切り株は有効な手段だと考えが広まっている。

    大統領選を左右するヘッジファンド

    米国大統領選挙戦に勝つためには巨額の資金が必要で、一説には500億円をドブに捨てる覚悟が無いと出馬もできないという。そして、そんな大金を調達する手段として、ヘッジファンドが暗躍している。
    オバマ民主党候補には、このところ、有名ヘッジファンドのジョージ・ソロスとポール・チューダー・ジョーンズが資金援助を惜しまない。ヘッジファンドの支援で、2008年、米国で初めての黒人大統領が誕生するかもしれない。
    2007年3月にジョージ・ソロスがヒラリー・クリントンからオバマ候補へ支持を変えた。クリントン上院議員はこれまでソロスの援助にかなり頼ってきた が、今回、ソロス側はオバマ支持へ切り替えた。ソロスの個人資産は85億ドル(約1兆円)と推定される。ついでチューダー・ジョーンズは5月19日に、オ バマ候補のために大規模な資金集めのパーティを企画した。コネチカット州グリニッジにある彼の邸宅には25の車庫があり5百名が出席したと新聞は報じてい る。チューダー・ジョーンズは150億ドル(約1兆8千億円)のヘッジファンドを運用している。
    オバマ候補は、オーリン・クレイマーやイートン・パークなど有力ファンドの支持も取り付けている。2004年から一貫してイラク戦争に反対を唱えてきたオバマ氏にヘッジファンド業界が支持に回っているのだ。

    忍び寄るリセッションの影

    投資ファンドは金融資本主義のグローバル化とともに勢力を拡大してきた。この破竹の勢いはいつもで続くのだろうか。大統領選挙を控えた2008年以 降の米国の景気動向をどう読むか、ソフトランディングか、もしくは、大不況か。エコノミストたちが頭を抱えている。投資ファンドの勢いもまた景気動向に左 右されるのだ。
    じっさい、目利きと言う評判の高いヘッジファンド運用者は、実際の景気動向を見るには株式市場ではなく、信用市場をウォッチすべきだという。過剰な信用 は、劣悪な住宅ローン貸し手のみならず、大手PEがこぞって資金をつぎ込んでいるレバレッジド・バイアウト(LBO)にも当てはまる。PEがいっせいに案 件を追いかけるので株価は公平さを失い、割高になっている。PEはプレミアムを払うのだが、彼らは自分たちが誰よりも優秀であると信じている。過剰な信用 は過剰な自信を生み出す。そして、相場が安定する限りマーケットの自信は続くが、いったん下げに転じると自信はすぐに失われる。
    リセッションは急に駆け足でやって来るというよりは、ゆっくりと忍び寄る。米国の住宅市場の不調は始まったばかりである。金利上昇が住宅価格の下落を招 き、在庫が膨れ、さらに住宅価格を押し下げる。そして、価格低下がさらに競売を促す、こうした悪循環が膨れ上がってくる。同様に、世界中の不動産市場のバ ブルも、金利上昇にともない順繰りに収束に向かうだろう。
    大統領候補者は誰も、米国がいまからリセッションに向かうなどという暗い発言を避けるだろう。そんな中、リセッションはひたひたと背後から近づいているのだ。